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香りさわやか、味しっかり。本場アメリカの濃厚なヘイジーダブルIPA「キング スー」

2021.08.20

近ごろ絶大な人気を誇るビアスタイル、ヘイジーIPA。一時的なブームにとどまらず、その人気はすっかり定着してきている感があります。日本でも多くのクラフトビールメーカーがオリジナルのヘイジーIPAづくりに挑んでいます。そこで今回は、7月に日本で発売されたばかりのヘイジーダブルIPA、「キング スー」をご紹介します。

そもそもヘイジーIPAとは?

ヘイジーIPAのヘイジーとは“hazy”、つまり濁っているということ。この濁りはもともとニューイングランドIPAと呼ばれるビアスタイルの特徴でした。ニューイングランドとはアメリカの北東部にある6州を指します(図の赤い地域)。いつしかその見た目からヘイジーIPAと呼ばれるようになりました。

出典:Wikipedia

アメリカにはニューイングランドIPAだけではなく、ウエスト・コーストIPAというビアスタイルもあります。こちらはその名の通りカリフォルニア州を中心とした西海岸エリアで作られています。ニューイングランドIPAとは異なり濁っていませんが、どちらもアメリカ産のホップを大量に使用した柑橘系の香りが特徴です。

出典: HOerwin56によるPixabayからの画像 

ネーミングの由来はティラノサウルスの「スー」

キング スーを醸造しているのは、クラークとバーバラのルーイー夫妻が創業したトップリングゴライアスというクラフトビールメーカー。アメリカのアイオワ州(図の赤い州)の北東部、デコラという街に醸造所を構えています。地理的にはややニューイングランド寄りです。しかし、アイオワ州はクラフトビール不毛の地と言われ、ルーイー夫妻はこの醸造所を設立する前、クラフトビールを飲むためにおとなりのウィスコンシン州まで足を伸ばしていたそうです。ウィスコンシン州には、もともとミラービールなどアメリカビールの一大生産地として知られるミルウォーキーがあります。おいしいビールの研究には最適の場所だったことでしょう。

出典:Wikipedia

トップリングゴライアスの「ゴライアス」とは、旧約聖書にでてくる巨人・ゴリアテのこと。ロゴにもダビデと戦う姿が描かれています。「トップリング」は倒れる、倒すという意味なので、小さいクラフトメーカーながらもいずれは大手メーカーを倒すぞ、世界を制覇するぞという意気込みを表しているのかもしれませんね。

またキング スーの「スー」とは、缶に描かれているティラノサウルスのこと。シカゴのフィールド自然史博物館にいる、世界最大級・体長約12mの恐竜化石標本の愛称です。クラークさんはこの博物館が好きで、自分の子どもを連れてよく訪れていました。今にも鳴き声が聞こえてきそうな、日本ではなかなか見られないタイプのデザインです。

出典:Field Museum of Natural History

さわやかな柑橘系の香りと重めのボディ

さあ、いよいよビアタイム。グラスに注ぐと、鮮やかなオレンジ色が目に飛び込んで来ました。パッと見はまるでフルーツジュースです。もちろん泡があり炭酸の音も聞こえてきますが、ビールということをしばらく忘れさせるほどのインパクトがありました。注意ぶかく鼻を近づけると、柑橘系の爽快で甘い香りが立ちのぼってきます。

その味は、見た目や香りに反して濃厚です。口の中に甘味と苦味が突き刺さってきます。また、マスカットのようなさわやかさや植物の茎のような渋味も少し感じられました。

しかし、甘いお酒にありがちな人工的な印象はなく、後味は思いのほかさっぱりしています。香り・味どちらも強く、両方を一緒に味わうというよりは、香りを楽しんだ後、別ものとしてフルーティーな味やコクを楽しむのがいい気がします。決してのどの乾きをうるおすために一気に飲みほすタイプのビールではありません。

ヘイジーにはスパイシーがよく合う

今回合わせた料理はカレー、そしてチキンの照り焼きです。前回同様、お店の人にこのビールに合うおすすめの料理を訊きました。訊く前に編集部Kは柑橘系の料理を合わせたら良いのではと仮説を立てていました。柑橘系には柑橘系をという、いわば香りの相乗効果狙い。グレープフルーツやマンゴーの果肉と果汁を使ったサラダなどのイメージです。しかしこの考えをぶつけたところそれでは負けてしまう!と断言されました。なぜなら、キング スーの香りや舌から口に広がる刺激はかなり強いので、フルーツを合わせようとしても風味が消されてしまうということでした。

実際にカレーを一緒に食べてみると、なぜカレーをすすめてくれたのかを理解しました。カレーはスパイシーなのでビールの刺激が少しマイルドに感じられ、反対にキング スーの強い風味は、カレーの辛さを和らげてくれます。この強烈なIPAは刺激が強く、ビール単体で飲み続けるよりは、むしろカレーのような香辛料が多く使われている料理をお供にしたほうがいいでしょう。ちなみにチキンの照り焼きは、以前紹介したこちらの記事をもとに用意。甘辛いタレも味付けとしては濃いので、これはこれでペアリングとしては悪くありません。料理を選べば和食にも合います。

ビールづくりは自然を相手にする仕事

ビールは酵母、ホップ、麦、そして水といった要素から成り立っています。どのように酵母やホップを育てるか、どの水を使うかなど、ビールづくりは生物学、植物学、地質学などの領域も関係する仕事と言えます。自然史博物館が好きだったクラークさんが素材を生かしたおいしいビールを作るようになるのも、きっと自然の成り行きだったのかもしれませんね。