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クラフトビールを作りたい!若きブルワーの挑戦と、東北オススメのクラフトビール<前編>遠野醸造でクラフトビール作りを学んだ大木直都さんへインタビュー

「クラフトビール」は作り手によってさまざまな味が楽しめます。その土地の特産物を使った味わい、そこでしか飲めない限定感があり、旅の楽しみ方の一つとして若い人や女性からも人気上昇中。

また、新型コロナウイルスの影響で旅行に行けない事態になると、クラフトビールのオンラインイベントをするなど、地域の魅力を発信するツールとして、新しい試みも行われるようになりました。

ビールは、街と人をつなげるもの。

今回は、遠野醸造にブルワリー見学をさせていただいた際にお会いした、遠野醸造研修卒業生の大木直都(おおき なおと)さんにインタビューをさせていただきました。

大木さんは、地元の北海道でクラフトビールを作るという夢があり、昨年、遠野醸造で研修を受けました。クラフトビールを作るために醸造所で学んだこと(前編)、そして大木さんが東北で出会ったおいしいクラフトビールを紹介していただきます(後編)。

プロフィール
大木直都
北海道函館市出身。北海道大学卒業後、北海道庁に勤務。
その後、クラフトビールを学ぶため、岩手県遠野市の遠野醸造でインターンを経験する。現在、北海道で新しいクラフトビールを作るために準備中。

好きなビアスタイルはヴァイツェン。
「ソロキャンプにビールがあれば生きていけます。」

ビールは世界を問わず話が早い

―大木さんが、クラフトビールを作りたいと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

「北海道庁時代に、北海道の新しいコンテンツを作ろうという機会があり、ビールが北海道の新しいコンテンツになるのではないかと考えました。実は、北海道はビールとの歴史が深いんです。明治時代、北海道の開拓使が置かれてすぐにビール醸造が始まりました。

それが、『サッポロビール』の始まりです。大麦やホップの生産も行われていて、生産地としての面もあり、クラフトビールも多いのです。

点で考えるとたくさんコンテンツがあるのに使いきれていないのが残念に感じて、それらが一堂に会する企画を立てようと思いました。

それが、仕事としてビールを捉えたきっかけです。」

― 確かにサッポロビールって、言われてみたら札幌ですね!日本を代表するビールだと思っているので、北海道とつなげて考えていなかったです。具体的にはどういう企画になったのでしょうか?

「北海道・札幌市政策研究みらい会議という企画なのですが、大手ビールメーカー、道内のブルワリー、ビアバーと協力して北海道にゆかりのあるクラフトビールを集めました。今まで、ビールに関しては地域と行政が一体になったイベントがなかったので、初めての試みでした。

また、一般的には、大手ビールメーカー対クラフトビールという境界ができてしまいがちなところ、大きいものも小さいものも、またブルワリーだけでなくビアバーも参加して、ビールでつながる人たちが一つになれたのも非常に良い経験でした。」

―すごく面白そうな企画ですね。確かにビールは共通言語になって、人をつなげる力がある気がします。

「そうなんです。みらい会議に携わった後、ニセコの倶知安(クッチャン)という町に勤務することになったのですが、そこはスキーシーズンになるとさまざまな国から観光客が訪れます。

そこでみんな乾杯するのは、『サッポロ』や『スーパードライ』など日本製のビールなんです。それを見て、おいしいビールの基準はさほど変わらないんだなということを感じました。ビールがあると、世界を問わず話が早いなと、そう感じました。」

ブルワリー研修で学んだこと

―仕事でクラフトビールと関わった経験も経て、その後大木さんは自らビールを作ろうとすることになるのですが、遠野醸造を研修先に選んだのはどうしてですか?

「ビールに関わる仕事をしたいなと漠然と考え始めた頃から、クラフトビールを作るだけではなくて、ビールで地域を発信していきたいと考えるようになりました。そういうことをやっているのはどこかと探したら遠野だったんです。

作り手も、発信していく人も、行政も地域の人も一体となって、地域の魅力として発信しているというのがとても魅力的でした。

それと、ビールを作る上では、原料のことも知りたいという思いがあったのですが、遠野に行けばホップのことも学べるため、これは遠野に行くしかないと思いました。」

―遠野醸造では、具体的にどのようなことを研修で行ったのでしょうか?

「醸造に関しては、仕込み・発酵・樽詰め・洗浄の一連の作業と、麦芽やホップの原料の管理、酒税の報告です。

あと、これは研修の一環ではないのですが、ホップ農家さんの所で収穫のお手伝いもさせていただきました。研修では、レシピの開発に関しても、定番で作っているビールに改善策を出して“次はこうしてみよう”という提案を受け入れてくれることがよくありました。

研修生ながらこっちから発信して、“じゃあやってみようか”とさせていただけたのはすごく良い経験でした。」

―研修でレシピの開発にも関わらせてもらえるのですね!

「僕も驚きました。(笑)遠野醸造のようなマイクロブルワリーと呼ばれる所では、一度の仕込みで多くの量が作れるわけではないので、たくさん回転させてたくさん売らなければいけないというのが、どこのブルワリーでも課題だと思います。

1回作ってみて失敗するということも許されない状況で、研修生の意見も取り入れていただけることは、とても貴重な経験でした。

その理由として、遠野醸造の袴田さんや醸造長の太田さんは、自分たちが遠野醸造を立ち上げた時に、たくさんの方たちからお世話になったという経験があるため、自分たちが得た技術は外に出していこうという思いがあって、研修生を受け入れているからだと聞きました。“オープンでフラットであること”がブルワリーのコンセプトでもあります。」

ここで、また一つ、遠野醸造のスピリットを感じました。知らない土地から来て、たくさんの人たちからお世話になり作り上げたブルワリーで、自分たちの技術を今度は外の人へ与えていこうという思い。

遠野醸造の袴田さんからは、「クラフトビール業界の特徴として、技術を独占するのではなく、シェアして業界全体の技術力を高めていこうというマインドがある」と教えていただきました。

遠野醸造が研修生を受け入れるのも、業界全体のマインドを反映させているということです。

人から人へつながれて、日本全国おいしいビールが作られていく様子がとても素敵なことに感じました。

街と人をつなぐクラフトビール

大木さんは、研修中に、期間限定のクラフトビールを完成させました。「松崎町ベリーエール」と言って、遠野市の松崎町で作られたブルーベリーを副原料に、新しく作られたビールです。

―「松崎町ベリーエール」はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

「まずは、一からレシピを作る前に、出来上がっているレシピの改善をさせていただきました。遠野醸造では、毎年作られている『サンクスセゾン』というビールがあって、これは地元の農家で取れたホップ100%で作られるビールです。

まず、このサンクスセゾンを作るのに、去年のレシピの改善をしてごらんよと言われて、自分なりにネットで調べたり、去年飲んだ人にリサーチしたりして、お手伝いさせてもらっているホップ農家たちと一緒に7月に仕込みをしました。

そして、そこで得た知識や経験を元に、新しいビールを一から作るということで『松崎町ベリーエール』に取り組みました。

どんな副原料を使おうかなと思った時に、遠野醸造で料理に使わせてもらっている農家で作っているブルーベリーを使おうと思いました。

こちらの農家は完全に無農薬で栽培をされていて、以前に一度、そのブルーベリーの畑を見せてもらう機会がありました。

高台にあって、遠野の街が見下ろせる風光明媚(ふうこうめいび)な場所で、そこから遠野の街を眺めながら、きっとここで収穫されたブルーベリーは遠野ならではの味がするんだろうなと思ったのです。」

左から遠野醸造研修生の菅原さん、大木さん、道の奥ファームの安藤社長、遠野醸造代表の袴田さん。

一粒一粒、丁寧に手摘みをしていきます。

―「松崎町ベリーエール」を作って、印象的だったことはなんでしょう?

「ビールが持つ“つなげる力”というものをすごく体感できたと思っています。研修が終わる時に、こちらの農家さんが送別会を開いてくださったのですが、その時に“遠野醸造のビールに自分たちのブルーベリーを選んでくれたことがとても嬉しかった”と言っていただけました。

こちらの農家の方は、もともとは遠野の方ではなくて移住をして来られた方なのですが、地元の人たちに自分たちの存在を知ってもらえるきっかけになったと喜んでくださいました。

これまで、僕はビールを地域の魅力として、外へ発信するということに意識を向けていたのですが、ビールは、地元の人と地元の人をつなげることもできるんだと改めて知ることができたんです。

地元にはこういうものがあるんだよ、というのをビールには伝える力がある。それを知ることができたことが、とても印象に残りました。」

ビールというのは、地域の魅力を外に発信するだけではなく、地元の人たちに、改めて自分たちの土地にある魅力を知ってもらうことができる。住んでいる人に伝える役割があるということに気が付いたと言います。

「今回、できたビールの名前に“松崎町”とつけたのにも、そういう思いがありました。

お客様が飲みに来られて、松崎町ってどこ?と聞かれることが多かったんです。ビールに町の名前を付けることで、市外の人にとっては街に興味を持ってもらい、市内の人には愛着を持っていただけたことがすごく良かったです。」

また、この「松崎町ベリーエール」は、大木さんの地元の北海道や、東京でも販売されました。

大木さんが遠野醸造でビールを作ったことをSNSで知った同級生が連絡をくれ、友人が働く東京にあるビアバー「TAKI」(渋谷)や、北海道の「モルトヘッズ」(札幌)で出してもらい、前述の北海道みらい会議でつながれた「Atta maruyama」では遠野醸造初のタップテイクオーバーが行われたと言います。(タップテイクオーバーとは、ビアバーで一つのブルワリーだけのビールを出すイベントのこと)

ビールは街と人をつなぐもの。遠野の街で行った研修が、思いがけず、東京や北海道で実を結ぶことができました。

Atta maruyamaでの遠野醸造テイクオーバーの様子。大木さんも参加して北海道のみなさんと乾杯。

―最後に、遠野の街を体験して、いかがでしたでしょうか?

「遠野は、移住者と地元の人が一体となって街づくりをしていて、一度遠野を出た人からも、今なら遠野に帰ってきてもよい、と言われるような結果を作り出しています。

働く場所が生まれ、地元の人たちが帰ってきたいと思えるような街づくりをしている姿を見られて、とても良い経験になりました。

そういうことを増やせば、もっと地域は良くなっていくのではないかと思います。」

―今後、大木さんはどのような挑戦がしたいですか?

「遠野で経験したことを、今いる北海道の仁木町で、より実践していきたいと思っています。仁木町はフルーツ王国で、フルーツ狩りなども楽しめる場所です。ここで作られた原料を使ったビールを作って、より地域の魅力を発信することができるようになりたいです。

遠野で生産者さんと一緒に仕事をして感じたことは、“いくら農家さんが品質の良いホップを作っても、作り手がぞんざいにしたら台無しになってしまう”ということです。

その土地で作っているものの重みを感じることができました。作る以上は、原料のルーツを感じて、たくさんの人に喜んでもらえるものを伝えていきたいと思っています。」

大木さんから伺ったお話の最後、遠野醸造の代表の袴田さんのインタビューで、「神は細部に宿る」とお話しされていたことを思い出しました。

丁寧な仕事をしようと心がける姿からは、生産者さんや応援してくれる地元の人たち、一緒に地域を盛り上げる仲間たちとのつながりが、「ビールを大切に作る」という思いにつながっているのではないかと感じました。

この次は、北海道・仁木町で大木さんがどんなビールを作るのか、楽しみに待っていたいと思います。

ブルワリー情報

遠野醸造TAPROOM
岩手県遠野市中央通り10-15
0198-66-3990
定休日:火曜日
公式オンラインショップ
https://tonobrewing.myshopify.com/

ビアバー情報

TAKI
東京都渋谷区桜丘町17-12 渋谷ジョンソンビル3F
03-3780-0650

モルトヘッズ
北海道札幌市中央区南三条西8-7 大洋ビル B1F
011-522-5152

Atta maruyama
北海道札幌市中央区大通西24-2-18 パレンテ1F
011-215-6061

<後編> 大木さんが東北で出会った、おいしいクラフトビールの紹介へ

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取材・文 / さとう 未知子

*記事に掲載されている内容は、インタビュー取材時点のものとなります。